葦原

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

四方から響く虫の羽音
静けさを打ち破り声を合せて鳴く鳥達
じわりと滲む淡金色の陽ざしにあてられて瞬きのうちに緑も深くなった
水辺には葦の芽が勢いを増して枯れ渡る水際を覆い尽くそうとしている

枯葦原

葦はイネ科の多年草で水辺や湿地に群生し高さは一~三メートルほどもなる
屋根を葺いたり簾を作ったりできる
葦、蘆、葭と書き方は様々、葦(あし)が「悪し」になることを嫌い「よし」とも呼ぶ
秋ぐちには薄(すすき)のような美しい淡紫の穂をつける

古筆料紙の下絵には葦がたくさん描かれている
左が桂本万葉集(かつらぼんまんようしゅう)、右が太田切(おおたぎれ)の部分
金銀泥で穂先まで細かく描き込まれていて丁寧だ
古筆
画像引用)二玄社日本名筆選よりhttp://www.nigensha.co.jp/shodo/bk_info.html?2001&INF=1830

金銀泥下絵の他にも葦を描いたものに葦手絵(あしでえ)がある
下は鎌倉時代の元輔集(部分)
茶色の染料で勢いよく葦が描かれている
元輔
画像引用)至文堂 日本の美術より

また葦手絵には隠された意味を持つ葦手文字(あしでもじ)もある

たとえば、、、、、
下は西本願寺本三十六人家集 能宣集上
(にしほんがんじぼんさんじゅうろくにんしゅう よしのぶしゅうじょう)
この料紙には「う」の形の鳥が瓶(へい)=「へ」にとまっている
合わせて「うえ」=「上」を意味し、その横の猫を抱く童子が写本制作の当時十歳の鳥羽天皇を表しているのだ
能宣集上
画像引用)至文堂 日本の美術より

私が個人的に好きなものはもう少しあとの時代の隆房卿艶詞絵巻
硬めの筆使いで清潔感のある画面がなんともいえない、、、
左の松の絵の部分には詞書の冒頭を葦手化してある

かすがの山の ふじなみの 木だかき色に ひとりしれぬ 心をつくし そめしより

隆房艶詞
画像引用)中央公論社 日本絵巻大成より

このように葦手絵は葦や水鳥の中に絵文字を忍ばせ
絵画性を持たせつつ文学性まで備えた装飾技法なのだ
葦手絵は少なくとも平安時代十一~十二世紀には成立していたようだ
ほかにも国宝平家納経や久能寺経、葦手朗詠集などに用いられている
まだまだ謎や諸説がありとても奥深い
なぜ多くの古筆料紙に葦が描かれているのか
それは神話の時代
混沌とした国土に神が現れる様子を

葦芽(あしかび)の如く萌え騰る物によりて成る <古事記>

と水辺の葦が萌えあがる様に例えたことからはじまる様に思える
はるかむかし古代日本は「豊葦原中国(とよあしはらのなかつくに)」といわれていた
水辺に広がる豊かな葦原は日本の原風景なのだ

葦原

関連記事

コラム一覧

2015年5月
« 4月   6月 »
 123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031