自分の生活をつくる

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毎日お味噌汁を飲むのに使っている漆のお椀があります。
10年近く前、当時池袋にあった全国伝統的工芸品センター(現・伝統工芸青山スクエア)で見つけた浄法寺塗のものです。

夜、料理をすべて食卓へ運び、最後に食器棚からご飯茶碗とこのお椀を出して、ご飯をよそい、お味噌汁をつぎます。
食後、ほかのどの食器よりも先にこのお椀を洗って白くやわらかな木綿のふきんで拭き上げ、乾かしてから食器棚にしまいます。
そのたびに思います。理想的な道具だと。
持ったときに丁度よくおさまる大きさとカーブ、高台の高さ、控えめな朱漆の色、熱いものを盛っても手にやさしく冷めにくい機能性、どれひとつとっても好ましい、私にとって完璧な日用品です。

岩手・盛岡へ初めてひとり旅をしたときには、このお椀を作っている浄法寺塗の「うるみ工芸」を訪ね、おいしいそば茶をいただきながらお店の方のお話を伺ったこともありました。

先日、伝統工芸青山スクエアを初めて訪れた際に、家にあるのと同じ色、同じ形のお椀が変わらずに並んでいるのを見つけました。四方八方からしげしげと眺めてみて、やはり完璧なデザインだとひとり首肯し、それがいまも作りつづけられていることを嬉しく思いました。

私はこの先の人生で、あと何千回、何万回、食事をするでしょうか。どんな食器にどんな料理を盛るでしょうか。

ですが、お味噌汁をよそうお椀だけは、変わらずこの浄法寺塗のお椀を使い続けていくことと思います。ほかを探そうと思ったことはないし、探すことになるとも思いません。

「一生もの」といいますが、一生使うつもりで買ったものでも、好みが変わることもあれば、生活が変わることもあります。カラフルなアメリカのものが好きだった20代のころに集めたガラス食器はいまやほとんど手元に残っていませんし、愛用している鋳物の琺瑯鍋を、50代、60代になった自分がとりまわせるかどうか、確信は持てません。

それでも、このお椀だけはいくつになってもきっと変わらず、食器棚に並んでいることだろうと思います。

身のまわりの日用品すべてにおいて、そうした普遍的な、永続的な道具を探しつづけていくのでしょうし、そうした道具を選ぶ目を養っていきたいと思います。それが、私にとって自分の生活をつくるということなのです。

 

mu20150622

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