珈琲と一冊に集う『純喫茶へ、1000軒』

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純喫茶についての新しい本が8月7日に、アスペクトから刊行されました。
その名も『純喫茶へ、1000軒』

著者はブログ「純喫茶コレクション」を運営し、同名の書籍をPARCO出版から2012年に世に出されている難波里奈さん。昼間は会社員として働きながら、平日の夜と休日とで純喫茶活動に勤しまれ、これまでに訪ね歩いたお店は1300軒以上という方です。今回はその中から66軒を写真付きで、間にコラムや蒐集されたマッチの写真を織り交ぜつつ、後半にはお店ごとに短文を添えた1002軒(!)が収められた、純喫茶好きのための新たなバイブルともなりそうな本で、早速わたしも手に入れたというわけです。

『純喫茶へ、1000軒』とマッチ。そして『純喫茶コレクション』

『純喫茶へ、1000軒』とマッチ。そして『純喫茶コレクション』



寄藤文平さん+鈴木千佳子さん(文平銀座)のデザインによる手触りのよいカバーには一輪のバラが描かれていて、それが難波さんの純喫茶への一途な愛を象徴しているよう。

実は難波さんとは2012年の秋から面識があって、ときどき純喫茶へ御一緒させて頂いたり、この本が生まれるまでの道のりもいささかは見聞きしておりましたが、難波さんの純喫茶への関わり方を一文字で表せば、まさに「愛」。喫茶店という空間や、そこで出されるメニューはもちろん、何よりもマスターとの関係や周囲の人を大事にされている、人を尊重する姿勢が、いつも伝わってきます。

本を書くために作家として取材をするというよりも、とにかく純喫茶が好きでたまらない、その先におのずと本が生まれる、そうした有りようが、多くの純喫茶ファンの共感を得ているのかもしれません。刊行直前に荻窪のブックカフェ6次元で難波さんを招いて行われたイベント『純喫茶ナイト』も、急遽二部制となるほどの盛況ぶりで、難波さんの純喫茶愛がたくさんの参加者とを互いに引き寄せる力になっているように感じました。

愛という言葉は口にするには少々恥ずかしいものですが、純喫茶を訪れて、今後は再現が難しいであろう凝った内装や調度で整えられた空間で時を過ごすと、マスターがみずからの店に注いだ愛情、応えようとした設計者や作り手の愛とを感じずにはいられないもので、店を訪れて一杯の珈琲を味わった多くの人をふくめた、大きな愛なくしてはそうした場所も時間も生まれ得なかったであろうことに思い至るのです。そして、それらの場所が失われつつある現在やこれからの時間において、自分はいったいどんな関わり方ができるだろうかと想像したりもします。

例えば、京都の六曜社一階の壁面を覆う(ほとんど盛器といってよいほど)重厚な緑がかったタイルを見ると、タイル職人の白石普さんならばどのように思われるだろうかと、その姿を思い出します。あるいは、4月13日にこの「ほはばのデザイン」で荒木智子さんも記していた、有楽町ビルヂングのstoneのモザイクの床は、荒木さんならばおなじ色の石でもどう描かれるだろうか、などなど。純喫茶に限りませんけれども、作り手や使い手として、そうした愛情を持って場に関わってゆきたい、そんなことをも考えつつ、珈琲を飲みながらゆっくりとページをめくっています。

ところで、『純喫茶へ、1000軒』の制作においては、この「ほはばのデザイン」のメンバーの一人も道のりを共にしています。その人物とも私は難波さんと出会ったおなじ日に初めて出会いました。他にも幾人かおなじ日に出会った方がいて、彼らもやはりこの本の誕生を心待ちにしていたこととおもいます。そうした意味でも、この本の刊行はたいへん嬉しいこと。

純喫茶が好きな方も、あるいはたまたまこのブログを読まれた方も、ぜひ書店で『純喫茶へ、1000軒』をお手にとられてみてください。そして、いちばん気になる喫茶店でしばしの時間を過ごしたならば、純喫茶に象徴されるある大事な記憶は、その一人一人の中に引き継がれて、これからの世界をもうすこしだけ豊かにしてゆくのではないでしょうか。

ブログ「純喫茶コレクション

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