秋の読書

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郵便局へ向かう道すがら大きな樹の下を通り
地面に落ちた櫟や椎のどんぐり
そのどれもが深々とした青色に染まっていた
また辺りにはどこからともなく梅の実のような甘い香りが漂い
しばし考えた上にこれが金木犀の咲き始めの芳香であることに気付いた
よくよく思い返してみれば
たくさんの秋の虫が家の周りで美しく鳴いているし
空色の蜻蛉も飛んでいて
藤袴にも淡い紫の小さな蕾がついている
厳しい暑さの日々に家の中に籠もり仕事ばかりしていたので
周りの空気がすっかり秋の気配に包まれていることに今更ながらに気づくのだった

蜻蛉

私は小さい時から読書が苦手で学校の図書室には近づきもしない子供だった
休み時間に図書室などもちろん通わないし
国語の授業で図書室に行く時も何をしたら良いのか解らず時間を無駄に持て余していた
夏休みの読書感想文も苦痛で毎年最後の日に徹夜で終わらせたり・・・・
しかし決して本が嫌いだった訳ではない
専ら私の愛読書は植物や鉱物の図鑑だったのだ
この図鑑を見て多摩川で同じ植物を採取しスケッチして
特徴や効能を調べノートに書き
押し花にしたものをセロテープで横に貼る
……………こんなことを日々していた
しかし図鑑では読書感想文は書けないし
友達と図鑑の話で盛り上がる可能性はまず無い
漫画も中学生に上がるまでほとんど読んだことが無かった

私が図鑑以外の本を読みはじめるようになったのは高校生の時でかなり遅い
自分は美術が好きという事に気づき
まず展覧会の図録を買い集めはじめたのだ
しかし家は大変貧乏で新品の本を買うお金は無いので
自転車であの大きな某古書販売の店に行き
端っこの写真集とか美術書のコーナーでたたき売られて
100円ほどになっている図録を集めて美術を勉強していたのだ
たぶんほとんどの人が読まないであろう図録の後ろの解説ページを黙々と読んでいくうちに
画家や美術に関係した文学や大好きな植物の話が出てくることに気づきはじめ
古典文学や小説など関連するものを読みはじめるようになったのである
ここからは元来のコレクション癖と集中すると突き詰める性格が功を奏し?
すっかりいろいろなジャンルの本が好きになった
数えてはいないが蔵書は2千冊を軽く超えている(引っ越しが大変)
神保町で本を買いすぎて帰りの電車賃が無くなったこともあった
今では好みのジャンルが渋すぎて同年代はおろか
なかなか共通の話題で盛り上がれる人も居ないところまで来てしまった・・・
そんな今日は秋の夜長におすすめな
知識も増えて素敵な生き方についても知れる
いくつかの本をご紹介したい
※これは勝手な推薦本なのでご了承ください

志村ふくみ「 一色一生 」 昭和57年 求龍堂

染色家の志村ふくみさんの日常生活に溶け込む色に対するこだわりや
制作に対する熱意などが静かな空気感で描かれている素敵な自叙伝
これを読むと自然のことも勉強でき
好きなものに対する姿勢みたいな曖昧なものが
自分のなかの確かなものへ変わる気がする一冊

宇野雪村「 古墨 」 昭和43年 木耳社

書家雪村の文房四宝のひとつ「古墨」に対する考えやその歴史や研究について書かれている
古墨についての歴史が主だが
古典を大切にしつつ前衛書を極めた雪村の古墨への想いが伺い知れて面白い一冊
我が家の本は頂きものなのだが偶然サイン本

大岡信「 日本の色 」 昭和54年 朝日新聞社

非売品の雑誌「エナジー」掲載の特集を一冊にまとめたもの。
森本哲郎、丸谷才一、高階秀爾など22人の各方面の作家、芸術家の
色に対するいろいろな話が収録されていて非常に面白い一冊
日本の色についての感覚の疑問や外国の色彩感覚との違いなど様々な見解が飛び交う

岡潔「 春宵十話 」 昭和38年 毎日新聞社刊

数学者の岡潔による随筆
情緒を深めることが人間の成熟につながるという考えや
数学や芸術に共通する美についての考えなど教育という枠に収まらない
人間の本質に迫る内容の一冊

安東聖空 「 かな古筆美の研究 ~ 第七巻総論 ほんとうのかな ~ 」 昭和61年 同朋舎

書家の安東聖空が古筆の書法や歴史などについて詳しく記した教科書的なシリーズの最終巻
1~6巻は和漢朗詠集などの古筆についての歴史や連綿のバランスについて詳しく解説しているが
この最終巻には心の持ち方や美に対する姿勢など
「書」に限らない人間的に大切なことが記されている

 染ムラや商品にならずはじいた料紙をもったいないけれどたまにブックカバーにして使用している

芸術の秋、心静かに晩酌しながら読書でもしたいものだ

秋の夕暮

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