1ダースのおまじない

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ことしの大学入試センター試験がはじまりました。

大学のみならず高校や中学、小学校などなど「戦争」とも形容される受験の実戦がはじまろうとしています。ことし三度目の年男となった私には遠い昔のことながら、かつてはその戦を経験したひとり、入試の合否に将来すべてが掛かっているかのような必死の戦いでした。

私が戦ったのは高校入試。地元の小さな塾に通っていた14歳の冬のことです。

中学校生活で最後の冬休みに入ろうという十二月のある日、受験を控えた塾生すべてに数学の教官から、プラスチック製の細長い小箱が手渡されました。箱の中身は十二本の茶色い棒、すなわち1ダースの鉛筆です。新品の三菱 Hi-uni を、およそ1ダースの生徒たちに配り終えた教官は、静かにこう命じました。

受験当日までにその鉛筆を使い終えよ。

試験を迎えるまでに鉛筆を使い果たすほどの勉強をし、新品の鉛筆で試験に臨みなさい、それだけの勉強をすればきっと志望校に合格するだろうという、一種のおまじないです。年末年始、紅白歌合戦も箱根駅伝も見ることなく少年少女は鉛筆を削りまくり……、いや必死に勉強をしました。ほんとうは勉強が目的なはずなのに、鉛筆の消費量を競うようになったきらいもあり、必要以上に削ったことは否めませんが、これまでの人生で最も鉛筆を消費した日々だったのはたしかです。

いまは鉛筆よりもシャープペンシルを愛用している。

いまは鉛筆よりもシャープペンシルを愛用している。



そうして試験まであと数日という夜、こんどは唐突に家のチャイムがなりました。電報です。件の教官から塾生に激励の電文が発せられたのでした。これまでやってきたことを信じて試験に臨めばきっと合格するだろう、そんな意味のカタカナ文が記されていたのを覚えています。

二月。1ダースと1通のおまじないを受けとった中学生たちは、新品の鉛筆を装備してそれぞれの試験会場へと赴いたのでした。……ん?わたしですか?

残念ながら第一志望の高校には力及ばず、では合格した第二の志望校へ進むかと思いきや、土壇場で受験の選択肢に入れた第三志望の高校へと進学しました。事前の考えと現場での選択は必ずしも一致せず、予定外にして急な選択でしたが、高校・大学での生活を通じて得た親交はいまの自分を形づくる大事なものになりました。竹工家という現在の職業も、当時は想像だにしなかった偶然と必然が入り交じったような経緯での選択です。(それらの話はまたあらためて)

もちろん多大な犠牲をはらって受験する以上、試験には合格するに越したことはありません。とはいえ試験の先につづく人生は意外に長いもの。受験の結果にかかわらず、その後も「鉛筆」は何度でも削ることが出来るし、また削りつづけるべき、そしてその見返りはやがて何かの形で訪れる、そのようにいまの自分は捉えています。

入試という名の戦いが今年もはじまりました。
受験生の皆様には、風邪を引かず、怪我をせず、それぞれに悔いのない時間になりますように。

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